将棋の第62期王位戦七番勝負第3局・藤井聡太王位(19)=棋聖=対豊島将之竜王(31)=叡王=戦が20、21両日に神戸市で行われ、先手の藤井王位が117手で勝ち、シリーズ2勝1敗と白星を先行させた。難解な分岐点で形勢が分かれた一局。元王位・元竜王のA級棋士で第2局の立会人も務めた広瀬章人八段(34)が徹底解説した。
後手の豊島さんは1日目の封じ手の局面ではまずまずの折り返しだなと思っていたはずです。でも、2局目もそうでしたけど、有利と言えるところまで持ち込む具体的な指し手は非常に難しい、という将棋になりました。
対する先手の藤井さんは、先手番でも積極的にリードを奪いにいこうとするスタイルではありません。極端なことを言えば「序盤で形勢を悪くしてしまわなければいい」という感覚なのではないかと。それだけ終盤の勝負に自信があるのだと思います。一度大きくリードを奪ったらほぼ絶対に逃さない終盤の精度を持っていますから。
事前研究の部分では、どの将棋でもちょっとだけ豊島さんがリードしている印象なんです。そのリードをいかにして広げられるか、藤井さんはいかに詰められるか。序盤がどのような傾向になるかは今後のお二人の対局を観戦する中でのバロメーターになると思います。
角換わり相腰掛け銀の本局の序盤は、先後を入れ替えた形で自分も指したことがあります(2018年度・王将戦挑決リーグ▲広瀬章人八段対△中村太地七段戦。広瀬八段が勝利)。同じ手の組み合わせが先後を入れ替えて出現するのはいかにも現代将棋らしいですね。お互いの研究テーマがぶつかった印象でした。
現代の将棋ではありましたけど、本局の藤井さんは実戦の進行の中でタイミングを計りながら自玉を堅くして細い攻めをつないでいく、少し前の渡辺明名人が得意としたスタイルを指しこなしていましたね。指し口の幅の広さを感じました。
印象に残った指し手の組み合わせを挙げると、▲5四同銀△同銀▲4五歩の局面です。▲4五歩は4筋における激しい折衝の中で、展開にブレーキを掛ける一手なんです。羽生善治九段が得意とするところの「手渡し」(相手のアクションを待つ一手)で、非常に珍しく容易ならざる一手でした。実際、豊島さんは直後に1時間22分の長考をしていますから、意表を突かれた可能性が高いです。藤井さんに対する絶対的な「信用」(注・この人が指した手なら悪手ではないはずだ、何か深い意味があるはずだと考える感覚を示す将棋用語)があったのだと思います。こういう手を織り交ぜてくるところが藤井さんの強さだと思います。
第2局の立会人を務め、両対局者の様子を見させていただきました。対局室を離れた藤井さんは今でも、どこにでもいる学生さんのようにも感じますけど、盤の前に座ると…座って将棋を指すと、やはり指し手の精度が異常に高いので、そのギャップがすごいですよね。学業から離れて将棋に費やせられる時間が増えたからか、研究精度は確実に上がってきていると思います。
早くタイトル戦で藤井さんと指したいか、ですか? いやあ、そこまでは思わないですね~。私はタイトル戦の常連でもないですからねえ。でも、藤井さんや豊島さんが指す将棋は常に研究材料になっています。(談)
◆広瀬 章人(ひろせ・あきひと)1987年1月18日、東京都生まれ。34歳。勝浦修九段門下。札幌市在住だった小学6年時に棋士養成機関「奨励会」入会。高3時に四段(棋士)昇段。2009年、新人王。早大教育学部数学科在籍時の10年、初タイトルの王位を獲得。史上初の現役大学生タイトルホルダーとなって話題に。12年まで「振り飛車穴熊」を武器に活躍し「振り穴王子」のニックネームも。18年、羽生善治竜王から竜王を奪取した。19年の王将戦リーグにおける挑戦者決定戦では藤井聡太七段のタイトル初挑戦を阻止。今月6日の順位戦A級では豊島将之竜王に勝利している。盤上では斬れ味鋭い終盤力を誇るが、人柄はゆったり穏やか。将棋界随一の鷹揚な人柄で知られる。(肩書は当時)
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