特高に目をつけられた百合子(井川遥)と小暮(若葉竜也)。2人は時勢に逆らった自分たちの伝えたい芝居をするため、ソ連に亡命しようとしていた。千代(杉咲花)の咄嗟の演技と寛治(前田旺志郎)の存在によって特高の捜査から逃れた2人は、千代のもとを旅立っていく。千代には喜劇役者として自分の信じる道がある。女優同士が分かりあう必要はない。百合子がクルッと振り返り何も言わず千代を抱きしめたのは信頼と感謝、そして再会を祈る気持ちが感じられた。
『おちょやん』(NHK総合)第79回では、ある事件が起こる。一平(成田凌)が大山(中村鴈治郎)から預かった芝居の準備金がなくなったのだ。犯人はすぐに見つかる。それは中身の金額が300円だと口をすべらせた寛治だ。封筒に入った準備金をちゃぶ台に叩きつけ寛治は千代に向かってこう言い放つ。
「ほんまお人よしすぎてあほらしなるわ」
寛治の父親は新派の座長をしていたが亡くなった。寛治は身寄りもなく、千代に預けられることになった。寛治は役者の才能がない自分を、父親は見捨てたのだと恨んでいた。人を信じられなくなった寛治にとっては母親代わりになろうとする千代の優しさが綺麗事にしか思えなかったのだ。得意の作り笑いから、段々と怒りが込み上げていく寛治。「僕は、はよ大人になって一人で生きていくんや」と話す姿に千代の脳裏にはきっとヨシヲ(倉悠貴)の顔が思い浮かんだはずだ。
それぞれ境遇は違えど、寛治はヨシヲだけでなく、いつかの千代や一平、千之助(星田英利)である。共通しているのは見捨てられたという過去。千代には母親代わりとしてだけでなく、唯一寛治の気持ちに寄り添ってあげられる者としての使命があった。かつて千代を厳しくも温かく見守ってくれたシズ(篠原涼子)の存在も大きいだろう。
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