陸上自衛隊が日本最西端の与那国島(沖縄県与那国町)に配備されてから、28日で5年となる。陸自の誘致を巡っては島内で賛否が割れたが、今では自衛隊員は地域に溶け込み、反対運動は収まっている。与那国島に近い台湾を巡る軍事的緊張が高まることが懸念されており、有事にどう対応するかが課題となっている。(政治部沖縄担当 原尚吾)
坂井学官房副長官は26日の記者会見で、「与那国駐屯地は、全長が約1200キロ・メートルに及ぶ広大な南西地域の防衛体制強化のために重要な役割を果たしている」と述べ、陸自配備の意義を強調した。
与那国島は人口約1700人で、そのうち約160人が「沿岸監視隊」に所属する自衛隊員だ。島内2か所のレーダー塔から周辺海域や中国大陸に目を光らせている。
陸自誘致の是非が問われた2015年の住民投票は、賛成632票で過半数を占めたものの、反対も445票に上った。
住民が二分され、その後のしこりが懸念されたが、自衛隊員と家族らは島内で盛んな陸上大会の会場設営や道路清掃などのボランティアに積極的に参加し、島民との交流に努めてきた。陸自誘致により、人口が増えたことで、町の財政は好転した。町税収入の約2割を隊員の住民税が占め、陸自が支払う年間1500万円の土地賃料も町の貴重な財源となっている。
住民投票で反対派を主導した社会福祉法人理事長の上地国生さん(78)は「今でも陸自誘致には反対だが、現状では島内で目に見えた反対運動は起きていない」と話す。
与那国島は台湾と約110キロ・メートルの距離で、台湾有事の際には、中国軍の侵攻の対象となる恐れがある。
しかし、軽武装の沿岸監視隊は情報収集が主任務で、実戦には対処できないとみられている。
島内には、有事の防衛や島民保護のために自衛隊増強を求める声がある一方、「自衛隊が増えすぎると、島人(しまんちゅ)の島じゃなくなる」との懸念もくすぶっている。与那国町の
防衛省は23年度末までに、電磁波の収集や妨害活動を行う電子戦部隊を島内に追加配置する方針だ。防衛省幹部は「増員は小規模で、島内からの反発は起きないだろう」と話す。
南西諸島は日米両国と中国の双方にとって、戦略的要衝だ。日本政府は中国への抑止力強化のため、この地域への自衛隊配備を進めている。
2016年の与那国島への沿岸監視隊の配置を手始めに、19年3月に鹿児島・奄美大島と沖縄・宮古島に警備隊などを常駐させた。
さらに、23年度末までに沖縄・石垣島、20年代半ばには鹿児島・馬毛島に自衛隊基地を新設する予定だ。
南西諸島は約1200キロ・メートルと日本列島に匹敵する長さで、フィリピンまでつながる「第1列島線」に位置している。中国はこの線の内側への米軍侵入を阻止する「接近阻止・領域拒否(A2AD)」と呼ばれる戦略を描いており、周辺で艦艇などの動きを活発化させている。
これに対し、日米両国は南西諸島の防衛力強化で、中国の進出を食い止めたい考えだ。米国には中国が優位に立つ中距離ミサイルに対抗するため、第1列島線へのミサイル配備を模索する動きがあるが、日本は慎重な姿勢だ。
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