広州=奥寺淳
米アカデミー賞で最高の栄誉の作品賞を中国出身クロエ・ジャオ監督の「ノマドランド」が受賞し、ジャオ氏も監督賞を受賞したことについて、中国の主要メディアは26日昼の時点で報道していない。ジャオ氏が過去に中国に批判的な発言をし、愛国心の欠如を問われたことが影響しているとみられる。一方、香港メディアは「中国系の女性監督として初受賞」などと直後に速報ニュースを流した。
ジャオ氏が2月末、アカデミー賞の前哨戦である米ゴールデングローブ賞の作品賞と監督賞を受賞した際は、中国共産党機関紙・人民日報のデジタル版も「女性監督として歴史上2人目」と速報した。当時の中国版ツイッターの微博では「素晴らしい作品」「自由こそ優秀な創作の源泉だ」などと大絶賛だった。
しかし3月に入り、ジャオ氏が2013年のインタビューで「私が10代のころ、中国ではうそがあふれていた」と批判的な発言をしていたことが話題に。ジャオ氏の祖国への忠誠心の欠如を批判する論調に変わり、微博で数千万回のアクセスがあったノマドランドの中国語名「無依之地」にハッシュタグがついたページは、「法律と政策に基づいて表示できない」として開けなくなった。
ジャオ氏がアジア人の女性として初の監督賞を受賞したあとも、国営中国中央テレビのデジタル版はトップから3項目すべてが習近平(シーチンピン)国家主席の視察などに関するもの。作品賞の発表後も、ほかの主要メディアも習氏のニュースをトップ項目に起き、アカデミー賞関連には触れていない。
香港では授賞式が放送されず
ノマドランドは中国でも4月23日から公開される予定だったが、現在も上映されていない。微博では現在でも監督名などで検索すれば表示される。監督賞受賞前もジャオ氏への批判とともに、「上映禁止にする必要はない」「オスカー(アカデミー賞)の受賞に期待」といった前向きな意見もみられた。
また、19年の香港での大規模デモに参加した若者の姿を描いた短編ドキュメンタリー映画「ドゥ・ノット・スプリット」も今回のアカデミー賞にノミネートされた。しかし、香港では約50年ぶりに授賞式が放送されなかった。
米ブルームバーグ通信によると、香港のテレビ局TVBは「純粋に商業的な理由」と説明。しかし、中国共産党宣伝部はメディアに対し、授賞式の生中継や論争のある内容を報じることを禁止する通知を出した。TVBには中国資本が入り、経営陣も親中派が影響力を持つ。中国当局の方針に従ったとみられる。(広州=奥寺淳)
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