将棋の藤井聡太王位(19)=棋聖=に豊島将之竜王(31)=叡王=が挑戦していた第62期王位戦七番勝負第5局が25日、徳島市の料亭「渭水苑」で前日から指し継がれ、先手の藤井王位が77手で勝利し、シリーズ4勝1敗として王位のタイトルを初防衛した。7月の棋聖に続いて、10代でのタイトル連続防衛。タイトル初登場から4連続での獲得(奪取2、防衛2)は将棋史上初の偉業となった。
勝負を終えた直後の藤井の顔は、涼し気に見えた。「勝った将棋も苦しい場面が長い将棋が多かったですし、内容的に押されていたのかなと思います。番勝負で自分に足りない部分もいろいろ見つかったので今後に生かしたいです」。渡辺明名人=棋王、王将=の挑戦を3連勝で退けた棋聖戦からの連続防衛となったが、口にしたのは喜びではなく課題と反省だった。
先手番で相掛かりの力戦型に導いた一局。対豊島戦での「課題と反省」を表現したのが序盤の▲7四歩だった。デビュー281戦目で最長となる2時間1分の大長考。局後に「序中盤でリードを奪われる展開が多く」と七番勝負を振り返ったように、過去の豊島戦で得た教訓を生かして慎重に読みを入れた。難解な局面で形勢を損なわずに2日目を迎えると、豊島が極めて珍しい悪手を指して勝負は決した。対豊島戦1勝6敗で開幕し、第1局も完敗したが、終わってみれば第2局から圧巻の4連勝防衛で対戦成績は7勝9敗まで戻っている。
18~19日の第4局は豪雨被害により対局場を佐賀県嬉野市から大阪市に変更。シリーズ中にコロナ感染も拡大した。「大変な状況の中、環境を整えていただいたことに本当に感謝しています」。期間中には東京五輪も開催。連日の金メダルラッシュに列島が沸いたが、藤井はテレビ観戦を自重した。「休むことに集中していました」。生活の全てを将棋に傾注する姿勢は、過密日程の中での安定したパフォーマンスにつながった。
タイトルを3期以上獲得した棋士は藤井を含め27人いるが、うち20人は初挑戦では敗退、羽生善治九段ら2人が2度目に敗れ、谷川浩司九段ら4人も3度目に屈している。初登場から4期連続獲得したのは史上初。藤井は空前の大記録を進行形で作り始めている。
史上最年少三冠を懸けた豊島との叡王戦最終局が9月13日に待つ。勝てば豊島への挑戦権を得る竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局・永瀬拓矢王座戦も今月30日にある。年内に叡王と竜王を加えた四冠、年度内に王将と棋王を足した六冠の可能性を残す。棋界制圧へと疾走する19歳にとって、もはや絵空事ではない。(北野 新太)
■着付けの独り立ち果たした
王位防衛と並行し、藤井は和服の着付けで独り立ちを果たした。
昨年の棋聖戦以降、必ずタイトル戦に同行して着付けのサポートをしてきた白瀧呉服店(東京都練馬区)の白瀧佐太郎さん(47)は22日の叡王戦第4局、そして本局には同行せず。一人で着付けをこなした藤井について「太鼓判を押せます。普通の方より覚えが早くて、もう手順よりも、どのようにしたら奇麗に見えるかという段階に変化しています」と語る。今春まで「3合目」だったが「頂上」に登ったと評した。
本局も薄浅葱(うすあさぎ)色の羽織に月白(げっぱく)色の着物を見事に着こなした。白瀧さんは「藤井さんのおかげで和の文化としての裾野が広がっていると感じます」と感謝している。
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