「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が興行収入324・8億円を記録し、「千と千尋の神隠し」の316・8億円を抜いて歴代1位となった。新型コロナウイルスの猛威により大打撃を受けた映画業界への貢献度も果てしなく大きい。しかし、「鬼滅」一人勝ちの陰で泣いた作品もあったようで……。
「映画界の救世主」「日本経済を救う」。劇場版が10月16日に封切られ、破竹の快進撃を見せると、メディアを中心に、同作をもてはやすこんな言葉があふれた。数字も、救世主ぶりを裏付ける。
日本映画製作者連盟(映連)によると、映画全体の興行収入は、「鬼滅」が封切られた10月は207億円で昨年同月比で73億円増加し、11月も184億円で36億円増えた。今年全体の興収が現在の公表形式が始まった2000年以降で最低の1350億円前後になるとの見通しがある中、鬼滅ブームにより「映画ビジネスの回復をアピールできた」(東宝幹部)との声も上がる。
同作が空前の大ヒットを記録した要因としては、異例の「拡大上映」でスタートを切れたことが挙げられる。
東京のTOHOシネマズ新宿では、初日には11スクリーンで深夜を含め計42回上映。他の都市部でも1日30回超を上映するシネコンがあり、「鬼滅」が全国の映画館をジャックする形になった。
コロナ禍によりハリウッド大作が公開延期になるなどしてライバル作品が少なかったため、可能になった映画館側の「鬼滅に全集中」(興行関係者)。一方で、同時期に公開した作品は話題になることが少なく、あおりを食った。
その一つ、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を獲得して話題になった「スパイの妻」(10月16日)も封切り後に拡大上映できるほどに客入りがあったが、「土日を中心にスクリーンが『鬼滅』に割り当てられて、空けてもらえなかった。上映の時間と場所が限定されてしまった」(製作関係者)という。
小栗旬と星野源が出演する「罪の声」(同30日公開)の製作関係者は「公開した時期は、テレビ中心に鬼滅の話題ばかり。スタートがうまくいかなかった」と話す。大作のヒットの指数とされる興収10億円を超えたが、「20億円を超えたかったというのが本音。鬼滅だけの一人勝ちで、全体にとっていいことばかりではない」と嘆いた。
「鬼滅」と同じくファミリー層を当てこんだ3DCG映画「STAND BY ME ドラえもん 2」(11月20日)も、前作の興収83億円から大きく落ち込み、正月興行を経て30億円に届くかどうかだという。配給する東宝の市川南常務は12月15日の会見で「『鬼滅』が影響を与えたというよりは、コロナの第3波の影響が少しあったかという気はする」とし、「鬼滅」に客を奪われたわけではないとの考えを示した。
一方で、同作宣伝担当の一人は「『鬼滅』は第3波でも堅調に客が入っているので、コロナだけの影響ではない」と漏らす。その上で「『鬼滅』はアニプレックスと共同配給することが決まったとき、興収は30億円ほどという感触だった。その10倍に大化けするなかで、皮肉にも自社単独配給の『STAND BY ME』にまで影響を及ぼした」と話した。(小峰健二)
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